雨音に紛れて
「このまま入るわけにはいかないからさ、悪いんだけど、タオルくれる?」
土砂降りの雨の中、やって来た彼は全身ずぶ濡れの状態でそう言った。
タオルを持って出迎えた咲だったが、一枚じゃとても足りないと判断し、慌ててタオルを何枚か抱えて戻ってきた。
うち一枚を受け取って、滝沢は頬を拭く。
咲はタオルを広げて、彼の頭を拭いてやった。
「すごい雨…」
ざああぁぁぁ…。止む気配のない音に聞き耳を立てて、彼女はぽつりと呟く。
うん、と頷きを返して、滝沢は水をたっぷり吸い込んだ服に困ったような視線を向ける。
頭はざっと彼女に拭いてもらったが、Tシャツはぐっしょり濡れていて、このまま部屋に上がりこんでは大惨事は免れない。
前髪から滴る水滴をそのままに、滝沢はタオルを咲へ差し出す。
「ちょっと持ってて」
うん。 答えて、咲は湿ったタオルを受け取る。
咲は彼が風邪を引いてしまうのではないか、と心配の眼差しを向けた。
しかし滝沢は気付いた様子なく、咲の目の前でおもむろにTシャツに手をかけ、服を脱ぎ始めた。
「…、っ」
ドキリ、知らず高まった鼓動に、咲は息を呑む。
雨に濡れて素肌にくっついたTシャツを脱ぎにくそうにひっぺがして、滝沢は上半身を晒す。
贅肉がないだけではなく、意外と鍛えられている風な体付き。普段こうして、まじまじと見る機会もないので、気恥ずかしいものの、つい見てしまう。
ほどよく筋肉のついた腕に、いつも抱き締められているのかと思うと、くすぐったくて嬉しい、不思議な感覚が胸に沸き起こった。
滝沢は咲からの視線に気付かないまま、脱いだTシャツを持って、玄関の外に顔を出す。
相変わらずの豪雨に肩を竦めて、Tシャツをぎゅうっと絞った。ぼたぼたと落ちる水に、思わず苦笑い。
絞り終えて顔を引っ込めると、タオルを残して咲の姿が消えていた。
「…ん?」
咲? ちいさく呼びかける。けれど、雨音に掻き消されて、たぶん彼女には届いていないだろう。
とりあえず鍵を閉めて、その場に残されたタオルを使い、身体を拭く。
上はいいとして、下はどうしようか、と迷っていると、咲が大き目のタオルを持って戻ってきた。
「滝沢くん。お風呂、もう沸くから…」
「いいの?」
「うん。それに、風邪引いちゃうよ」
「じゃあ、ありがたく」
「うん。あ、これで足拭いて。…ズボンも、脱いだ方がよさそうだね」
「確かに」
「ズボンは置いておいて。私、お風呂に着替え持ってくから」
「ありがとう」
礼を述べると、ふわりと咲が微笑む。
踵を返して、咲はまた、部屋へと消えていった。
その後姿を見送って、ベルトを緩める。べったりと張り付いた服というのは、実に脱ぎづらい。
不快感に眉を顰めてズボンを下ろしたら、危うく下着も一緒に脱いでしまいそうになった。
咲がいなくて良かった、とひとり照れ笑いをしながら、今度は慎重にズボンだけを脱いだ。
まだ使っていなかったタオルで全身をざっと拭いて、ぺたぺたと廊下を歩く。
夏の雨とはいえ、どうやら身体は冷えているらしい。
水を拭き取る際に触れた背中やら腕が、冷たかった。
ぴろりろ~。
間の抜けた音が聞こえる。お風呂が沸いたらしい。
ナイスタイミング、と呟いて、彼は風呂場へ足を踏み入れた。
かすかなシャワーの音と、大きな雨の音が混ざって聴こえる。
降り頻る雨は次第にその激しさを増し、周囲には大雨洪水警報が出ているようだ。
風も強くなっているらしく、雨戸を叩く音が耳にうるさい。
こんなとき、滝沢が来てくれてよかった。ひとりだと、少しばかりこの雨音はおそろしい。
鋏で値札を、しょきん、と切ると、咲は新しい下着と彼の着替え、バスタオルを抱えて脱衣所へ向かった。
「滝沢くーん?」
「うん?」
ガラス戸越しに呼びかけると、どうやら彼は頭を洗い終わったところらしい。シャワーの音が止んで、ふるり、犬みたいに頭を振っていた。
「着替えとバスタオル、ここ置いとくね」
「あぁ、ありがとう。咲は入らないの?」
「え…? 入る、けど」
「後で?」
「う、うん」
「そう。残念」
「……、あ」
一緒にどう? と誘われてたんだ、とようやく気が付いて、咲はひとり赤面した。
着替えをカゴの中にそっと置いて、どうしよう、なにかフォローすべきだろうか、と本気とも取れる彼の声音に戸惑う。
「すぐ出るからさ、ちょっと部屋で待っててよ」
「うん…。ちゃんと暖まってきてね」
「だぁいじょうぶ」
そんな咲を察してか、滝沢はいつもの調子でそう言って、ひらひらと手を振った。
ガラス戸の向こうの彼がどんな表情をしているのか気になったが、まさか覗き見するわけにもいかず、咲はこっくり頷いて部屋に戻っていく。
彼女の足音が遠ざかるとを認めると、滝沢は鏡に映った自分を、ぼんやりと見つめた。
「こんな顔、咲に見せらんないや」
冗談のつもりだったのに、本当に残念そうな顔をしている自分に知らないふりができなくて、滝沢は困ったように笑う。
雨は、まだ止まない。誤魔化すように、滝沢はひとり、雨音を聞きながら湯船へ身を沈めた。
■END
お久しぶりに殴り書き! …たぶん……。
最近いろいろやっていて、エデン書いてるのになかなか発表できず。という感じです。
本日のお題、雨。
理由:豪雨だったから。大雨洪水警報ですって、ビックリ。
帰り道、橋を通るんですが、川がもうえらいことに。。。うちの近くに川がありまして、ええ。
ずぶ濡れで帰ってお風呂に入りながら、『あーこれは滝咲を書かないと』と。
というわけで、ずぶ濡れの滝沢くんを出迎え咲ちゃん。
Afterで咲ちゃん家(一人暮らし⇒アパート)です。
お二人がどういう関係なのか、そこはかとなく分かっていただけると思うので、(個人的には)いろいろ突っ込みどころありますが…まあ、ほのぼの、いちゃいちゃ、らぶらぶ、何でもしてください。滝咲がしあわせなら私はしあわせです(笑)
ほのぼの、いちゃいちゃ、らぶらぶ、シリアス、どれでもいけるけど。お客様的には、いちゃらぶなんですかね、やっぱり。ところで、いちゃいちゃとらぶらぶのボーダーラインは何処ですか? 自分で書いて思いました…(爆)
ちょいちょい忙しくなる感じで、エデンの劇場版Ⅱ発売日のあたりとか、ものっそ祝いたいのにスケジュール的に『あれれれ…?』って感じです。
忙しくなりはじめたのに、三日くらい前から、もそもそ呻いて挫折して投げ出したいけどいろいろがんばってます。
や、いろいろ、ではなく、がんばってるのは一個だけなんですが。。。
まあ、全体的にがんばります。エデンのために。(真顔)
つきねこさん宅で合同本の表紙が公開されてました。
ぐ、ぐは。萌えー!!!(*´∀`*) なんという滝咲。
いや、これは私、お客さんだったら間違いなく『買い』です。(笑)
でも同人誌って、事情がいろいろあって買いにくいよね。たぶん。
単行本とかの商業誌と比べると、どうしても高く感じてしまうかもしれないし、通販の方法が?な人もいるだろうし…(←自分です後者。笑)
哀華さんは一番萌えている滝咲に全力で愛を叫びたいので、同人誌あるなら欲しいなー、と買ってしまうと思いますが。
マイノリティだしね。悲しいね、泣いちゃうね・゚・(つД`)・゚・ ウェ―ン
まあ、人気ありすぎて飽和状態だと、萎えるタイプなので結局はマイノリティだから熱くなれる事実を否めないのですが…^^;
そうだ、石井Pさんのついーとを、ひとつご紹介。
第一話の上映、滝沢のジョニーで拍手喝采が沸き起こり、トークセッションでジョニーに関する質問が殺到し……滝沢のジョニーは間違いなく世界レベルである事を実感した北米PRでした!……失礼しました~ http://twitpic.com/22nvj3
滝沢くんのジョニーは世界に通用するレベル? ということは、なんていうか…その……
咲ちゃんが大変かもしれないね! 夜にいろいろ! いろいろ…あぁぁああ桃色爆弾どーん!!でした(*´∀`*)…すいません…変態で。
本日もお付き合い、誠にありがとうございます!
滝咲が好きで好きで仕方ないです。劇場版Ⅱ発売まで、あと一ヶ月?
どきどきわくわくしながら待ちます。Ⅱは劇場で既に八回見てるけど、自宅で見たらまた泣きますよ…(笑)
明日も素敵な滝咲好きたらんことを!