送り狼にはならないけど
寒いと思ったら、雪が降ってたらしい。窓の外に目を向けて、ちらちら落ちてくる大粒の雪を指さすと、咲は窓に足を向け、『わぁ』と小さく声を上げた。
その後に続いて、俺は咲の上から顔を出して道路や車に積もった雪を見下ろす。
…なんか地面が白い。コンクリートが見えてないし。
これだと、ビックスクーターは出せない。つまり咲を送っていけない。
送っていく時は、帰り際に別れがたくなってしまったりして、極々たまーに送り狼になりかけたりも…する。今日はその心配は、とりあえずないってことだ。
でも、別の意味でヤバイ。
「すごいね、滝沢くん。積もってるよ」
「うん。意外と降ってるし」
「明日の朝とか、もっと積もってるかも」
窓にぴったり張り付いた咲が、弾む声で笑う。
もう明日の朝の心配してるんだ?
なんか、咲って鈍いっていうか、無防備っていうか。
こっちの考えてることも知らないで、咲は窓越しに空を見上げている。
もう夜遅いんだけど、なんて言葉とかは飲み込んで。
急に胸に湧いて出たそれを誤魔化すように、ぽん、と咲の頭を撫でる。
咲はきょとんとした顔で振り返り、小首を傾げた。
その、あんまりにも純粋な瞳が、なにも分かってないんだと余計に感じさせる。
事実、そうなんだろうけど。この事態を分かってたら、咲のことだからもっと慌てるだろうし。
俺は咲の手を取った。
「滝沢くん?」
「冷えちゃうから、こっちにおいでよ」
「あ、…うん」
言って、さっきまで腰掛けていたソファを勧める。
咲は少しだけ照れたように頷いて、そっとソファに座った。
俺はブランケットを取り出してきて、咲の膝にかけてから隣へ腰を下ろした。
「ありがとう、滝沢くん」
「どういたしまして。咲、それだけで寒くない?」
「え? …雪降ってるんだと思うと、なんか急に寒いかも」
「そう? じゃあ、ちょっといい?」
「…え、」
俺は咲との距離を縮めて、腕を伸ばす。
背を通り越して腰に回った手に、咲は間の抜けた声を零して硬直した。
でも、まだ分かってない。ていうか、事態を飲み込めてないらしい。
こっちを見た瞳が、どうしたの、なんて訊ねている。
まだわかんないの? 声には出さないで、自然と笑む唇で語る。
「あ……」
そこでようやく、気が付いたらしい。
さっと頬を赤くして、咲は慌てた様子で腰に回った手に視線を落とす。
だけど、それだけ。咲に許された抵抗は、それだけだった。
動けないでいる咲の腰を抱いて、俺は咲の耳元に唇を寄せる。
「ごめん。あの雪だから、流石に送っていけない」
「…い、いいよ。電車もあるし…」
まだ帰れるつもりでいる咲が、小さくなった声で、ぼそりと言う。
ふーん? わざと息を吹きかけるように相槌を打つと、びくりと咲の肩が震えた。
「でも、時間」
「え?」
時計を見るように促すと、咲は大人しくそれに従って。
「…うそ、終電に間に合わない」
もう、帰る手段がないことを知った。
いつもは俺が送っていってるから、電車のことなんて考えないんだけど、今日ばっかりは電車を使った方が無難だ。
でも、雪が降っていることに気付かなかったから、終電にも間に合わない時間になっていた。
愕然としている咲に、くすりと笑みを零して、俺は咲を抱き寄せる。
「あ、」
「咲」
名前を呼ぶ。なんかもう自分でも分かるくらい、声色がいつもと違うって言うかなんて言うか。
どんなに見つめても、咲は目を合わせてくれない。ちら、と俺を見て、すぐに俯く。
我慢我慢、とか、紳士的に、とか。ぐるぐる頭の中で、そんな自己暗示が回るけど。
でもさ、こんな近距離でそんな顔されたら、俺だってもう我慢できない。
咲の頬は可愛い桜色になっていて、困ったように視線を泳がせている。
きゅっと握られた手がブラケット(たぶん位置的に膝の上)に置いてあるのが、また可愛い。
「咲」
もう一度、君の名前を呼ぶ。
こっちを見てよ、咲。そんな風に願いながら、抱き締める力を強くする。
密着した身体は、咲の柔らかさを知って、すぐさま火照りだす。
呼びかけに、咲は目を合わせてくれないまま答えた。
「……、なに?」
「わかんない?」
とぼけてるのかホントに分かってないのか、咲は俺の腕の中で息を吐く。
たぶん、咲はとぼけてる。だって、こういうの別に初めてじゃないから。
それに、緊張に身を硬くしてるの、バレバレだし。
そっと、咲の耳を探すように唇を押し当てる。
逃げるようにビクリと震えた咲を逃がさないように腕に力を込めて、唇で髪の毛を押し退ける。
見つけた耳朶をやわく食むと、掠れた吐息が咲の唇から漏れた。
途端、咲の身体がふにゃりと弛緩する。細められた目は潤んだ。
「、は…」
「もう咲は帰れないし、俺、帰す気もないよ?」
腰に回していた手を少しずらして、お腹より上に当てる。
手の甲に確かな重みを感じて、押し上げるように手を這わせた。
「…っ、た、きざわく、」
「咲は、いや?」
「!」
「いやなら、やめるけど」
「……、ぅ」
熱い吐息を零して、咲はブランケットの上の手を睨む。
うー、と呻いて、泣きそうな目をぱちぱちさせて。
真っ赤になった顔で、ようやく俺を見た。
真っ直ぐな瞳。躊躇うように、『滝沢くん』と動く唇。かすかな頷き。
本当はそれだけでも分かるんだけど、つい咲の反応が可愛くて訊き返す。
「いいの?」
「…、それ訊く?」
「咲が大事だからね、こういうのは同意の上で」
「襲ってきたのに!?」
「まだ襲ってないよ」
「そ、そうかな…」
照れている咲に、『そうだよ』と囁く。
いつもの調子で首を傾げた咲の頬にキスをして、そのままどさりとソファに倒れこむ。
きゃ、と小さな悲鳴を上げた咲を見下ろして、俺は頬が緩むのを自覚する。
ゆっくり目を開けて、咲は自分の状態を知る。そう、俺が上に覆いかぶさっているから、身動きもろくに取れない。
ビックリしている咲の目を真っ直ぐに見つめて、
「襲うって言うんなら、こういう風じゃないとね」
「え、…!? 滝沢くん、いきな、…っ!」
咲の服の中に、手を潜りこませる。
たぶん、俺の手が冷たいから。咲はビクリと震えた。
それを申し訳ないとは思うものの、手は止まらないし、触れた身体はあったかくて気持ちよくて、見る見るうちに咲の呼吸が乱れていくのが、すげえ興奮する。
「手、冷たかった?」
こくり、と涙目になった咲が頷く。
唇を結んだままのそれが、あんまりにも可愛くて、できるだけ優しく囁いた。
「ごめん。でも大丈夫。すぐに、熱くなるよ」
滝沢くん、と動きかけた唇を塞いで、俺は咲の素肌に手を滑らせた。
■END
日付も変わる頃にジュイスと打ち合わせ開始→ノリまくる→そろそろいってみようかエロリスト滝沢! …そんな結果です。
でもイメージしてたほど、それっぽくならなかった…orz
おかしいな、ソッチ系のネタはよく出るのに書けないとか。精進します。
書いていて楽しかったです。
書きたい滝咲を書いただけなのですが、誰かが望んでくれた滝咲だったらうれしいです。
読んでくれてありがとうございました!(イメージを破壊してないことを祈って…)
>ジュイス
忍者レベルだと思うだけどどうかな、いけそうかな。あの後書いたから、完全なるアウトゾーンはまだ書けてないんだけどね!orz
滝沢くん視点むずかしいです。ねむいです。四時です。何この久しぶりすぎる裏妄想突っ走りコース…w
テンション高いまま寝ます。大変お世話になりました!!&今日もお世話になります^^ おやすみなさい。