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エデンに響き渡るのは、焦がれた声。
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■東のエデン/滝咲
※劇場版ⅠのIF逃避行ネタ『ふたつのエデン』の続編です。ご注意ください。

ご覧になる方は、「つづきを読む」からお願いします。

いつかのエデン



─── このまま、二人で逃げちゃおうか。

耳元を掠めた声は甘く、まるで禁呪のように咲の心臓をわしづかみにした。望んでいいのか分からない望みが、咲の肩を強張らせる。
ゆっくりと、伸ばした手が滝沢の温もりに包み込まれた。

夏の雨に濡れた指先を絡めて、滝沢は咲の手を握り返す。
絡んだ視線に、ドキン、ドキンと鼓動が逸る。
頬を赤に染めて見つめてくる咲に、滝沢は胸の奥底が疼くのを感じた。
ふと浮上してきた茫漠な記憶の断片とは違う、もっと確かな想いが滝沢の胸を突く。

滝沢くん、と小さく咲の唇が艶めく。心臓はいっそう跳ねて、疼いた胸の理由が分からないまま、滝沢は自然と顔を寄せる。
きっとお互いの心が求めた距離を詰めて、メリーゴーランドは回る。
緩やかな音楽は雨音と混じり合い、人気のないこの場所はさながら二人だけの楽園のよう、現実を忘れてしまえそうな程に焦がれていた感触がこの手にあり、絡んだ視線は胸を優しく強く貫く。

じっと見つめ合う。不意に、咲の瞳に不安が揺らいだのを、滝沢は見逃さなかった。
戸惑いに染まる瞳は、しかし決して滝沢を拒んだわけではない。逃避行への、単純な恐れと不安だろう。このまま全てを投げ出してしまえば、もう二度と日常には戻ってこれないのではないか…そんな当たり前の不安が滲んで、咲は滝沢の手を強く握る。
滝沢は咲の心中を察すると、握る手の力を緩めて、ふ、と笑った。

「なぁんてね」
「…、え」

おどけた声のトーンに、咲が今までの種類の違う戸惑った表情を見せる。
どうしよう、と訳も分からず混乱している咲を安堵させるように、滝沢はそっと彼女を抱き寄せる。咲は思わずお腹のあたりに回ってきた滝沢の腕を見遣った。
滝沢の腕の中にすっぽりと収まった咲は、ジャケット越しの滝沢の温もりに息を呑む。

驚いた拍子に前を向いてしまったので、滝沢の表情は分からない。正直あのままでは首が痛くなっていただろうけれど、それでも滝沢の顔を見ていたかった。
それは咲にとって、半年前に忽然と姿を消した滝沢との距離を埋める為のささやかな儀式だったのかもしれない。

身体を包み込むほのかな温もりに、咲は目をぱちくりさせた。何気ない触れ合いなのかもしれないけれど、咲にとってはそうではない。力強さを感じずにはいられないし、滝沢が男の子なんだと思わずにはいられない。
滝沢の腕の中で縮こまった咲の赤い顔に気付かず、滝沢は囁く。


「君のこと助けてくれる人が居るのに、このまま逃げちゃまずいよね」
「、滝沢くんのことも、みんな心配してるよ」


咲はやや硬い声で返す。
平澤達エデンメンバーが心配しているのは、咲のことだけではない。こっちの事情はある程度話してある。だから、そう言えば滝沢は分かってくれる筈だ。
滝沢の帰りを待っているのが、彼の味方であるという事実を。

目を細くして、咲から見えない位置で滝沢は少し寂しそうに笑う。記憶のないことが、もどかしい。久しく感じていなかったもどかしさに、滝沢は微かに俯いた。
半年前の自分が築いた人間関係は、とても暖かそうだ。思い出せない現実に申し訳なく思いながら、そうだね、と滝沢は咲の手の甲を撫でる。

そうして、抱きしめたい気持ちと、抱きしめていたい衝動を飲み込んだ。


「アダムとイヴじゃないからね」


独り言のように零れた小さな声に、咲はドキリとした。
でも振り返れなくて、ただ手の甲を撫でる滝沢の指先に触れた。

一瞬動きを止めた滝沢は、咲の様子を窺って、優しく指先を絡め、自分より小さく柔らかなその手を再び握った。

「うん」

安堵したように、咲は頷く。

そう。私も滝沢くんも、二人だけの楽園にいたわけじゃない。
私達が求める楽園は、二人だけじゃ始まらない。

「滝沢くん」
「うん、何?」

願うように、咲は彼の名前を呼ぶ。
咲の意思で絡められた指先を包み込んで、滝沢は答える。

「…、」

戻ろう、帰ろう、あの冬の日に。胸に渦巻く思いを、しかし咲は言葉にできなかった。

咲やエデンメンバーの思いはひとつ、滝沢を救い出すことだ。
その為には彼が滝沢朗の記憶を持って、まず日本へ帰国してもらう必要がある。平澤達が日本国内でしか動けないからだ。
誰にも半年前の滝沢の意図は分からないが、それでも今の平澤達は滝沢本人より現状を把握している。

故に、帰還を祈るのだ。

但しそれは、滝沢をセレソンゲームに復帰させることになってしまう。セレソンシステムは日本という国に於いて作用する。
何も知らないままメディアに曝されるくらいなら、再び舞台に上がってもらう方がいい。何より王様申請を出した滝沢は、ゲームを上がるつもりでいる筈だ。
帰ってきて、と言うのは即ち、戦ってと口にするのと同義だ。
だから咲は唇を結ぶ。裏切った自分達からそれを願うのは、随分とムシのいい話だ。
呼び掛けたはいいものの、そこから先の言葉を紡げないでいる咲の気持ちを落ち着けるように、滝沢は少し身を寄せた。

回るメリーゴーランドに揺られながら、咲は滝沢の温もりに肩の力を抜く。
帰ってきてと願うのは悪いことなのだろうか。分からない。ただ咲はずっと滝沢の手が恋しかった。この気持ちを、悪いものとは思えない。

やや動きの鈍くなったメリーゴーランドに気が付いて、咲は滝沢に身を預ける。
滝沢はしっかりと受け止めてくれた。
それに勇気付けられるように、咲はようやく口を開けた。


「滝沢くん」


背中にある暖かさを噛み締めるように、探していた名前を呼ぶ。


「滝沢くんが半年前にいた場所は、楽園だったと思う?」


ここで手を握るのは、縋っているみたいで卑怯だと、咲はただ絡まる指先に目を落とす。
下がる目線に従って、咲のうなじが丸くなる。
それを見た滝沢は憂いの色を瞳に浮かべた。

半年前のことを思い出せない滝沢に、咲は何かを求めている。
それが何なのかはっきりと言葉にすることは難しいけれど、何となく分かるような気がして、滝沢は咲の問いにしばし間を置いてから、絡まる指を更に深く掴んだ。

驚きからか、咲の肩が揺れる。


「半年前の俺が考えてたことはわかんないけど、たぶん、そうだったんじゃないかな」


どうして、と咲の戸惑った気配を指先に閉じ込めて、滝沢はじっと、過去を探るように彼女を見つめる。振り返れない咲は、滝沢の答えに耳を傾ける。


「だって、そこには君が居たんでしょ?」
「え、…?」


事もなげに、滝沢は言った。
咲の声を合図にしたように、メリーゴーランドが止まる。
いつの間にか音楽が消えていることに、咲はメリーゴーラドが止まってから三秒後、ようやく気が付いた。

「心配してニューヨークまで来てくれるような子、あんまり居ないよ。たぶん」

彼女や彼女の友人の前から、勝手に消えたような過去の自分へ向けた、小さな小さな独り言。
咲に聞こえていたかどうかは分からないけれど、彼女は絡まる指先をきゅっと握った。

丸くなっていたうなじが真っ直ぐ伸びて、ゆっくりと振り返る。
咲の顔が見えるまで、滝沢は待った。


「…、」


答えを得て、振り向いた先には、優しい笑みを浮かべた滝沢が居てくれた。息が詰まる。
胸が締め付けられて、呼吸が上手くできない。言葉を紡げないでいると、手を離した滝沢がメリーゴーランドからさっと下りた。
寂しさを隠せず見つめると、滝沢は何も言わずに手を差し伸べる。
綻ぶ頬に季節外れの桜色を満開にして、咲は迷わずその手を取った。

─── ありがとう、滝沢くん。

言わなくても伝わるように、強く握った手に、すべてを願った。

アダムとイヴじゃないから、二人だけの楽園にいたわけじゃないから。
上手くいかないのが現実だって分かってるけど、逃げないで歩き出そう。
ここに、いつかの楽園の扉を開く為の手が確かにあるから。

■END

このお話は携帯でがーっと書いて取り込んでざっくり修正しただけなので、どこかヘンだったらすみません。

02/08に書いた『ふたつのエデン』の続編。今更だけど、そうそうこんな感じのが書きたかったの当時は。たぶん。
というか、『ふたつのエデン』が指すエデンとは何か? というのを、言っておこうとおもう。
表現力が足らなくて読んだだけじゃ、ハッキリとはわからない…気がする(すみません…)

アダムとイヴのいた二人だけの楽園と、そうじゃない楽園のことを指してます。
逃げちゃおうか、っていうのはアダムとイヴ二人だけの楽園を目指そうということ。
でもそれを咲が恐れたのは、彼女にとって楽園はアダム(滝沢)がいればいいという訳じゃなかったから。
滝沢は勿論必要なんだけど、滝沢だけじゃ楽園たりえないと気が付いていたから。
滝沢にも咲が必要としている大切なものは大切だった筈だと信じてるから、こわがって躊躇った。
なんとなく、滝沢もそれを察して、『(俺達は)アダムとイヴじゃないからね』と頷いたりしてる。

そういう意味で『ふたつのエデン』というタイトルをつけました。(IF逃避行ネタ)
今回のは『いつかのエデン』。いつか、というのは、滝沢と咲がかつて持っていた楽園のことであり、また滝沢と咲が選ばなかった(アダムとイヴの)エデンでもある。また、未来この先で滝沢と咲が手にするであろう楽園のことでも。

…と、ここまで小説でちゃんと表現できればよかったんですが!orz
表現したいことが決まってるのに、うまいこと書けない…。
こんなにハッキリとしたテーマがあるのも珍しいです(笑。いつも適当なんだね。爆)


そう! 来週の水曜日!! ジュイスと打ち合わせしてきます^^
池袋→エデン見る→語る→ジュイス宅で妄想→泊り込み夜モードつまりエロリスト滝沢ごほごほ! う、サポーターが…(ぱたり)
楽しみすぎてヤバイ。ジュイスのスケジュールおさえた時から楽しみだったけど、夜~だったのが丸一日打ち合わせになったので嬉しすぎる。

読んでくれてありがとうございます。
私は私の書きたいことしか書けないけど、読んでもらえてうれしいです。

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