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エデンに響き渡るのは、焦がれた声。
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■東のエデン/滝咲
※劇場版Ⅰ/The King of Edenのお話です。ご注意ください。

ご覧になる方は、「つづきを読む」からお願いします。

Crimson Days.



日本から人を探しに来たという彼女は、彼を真っ直ぐ見つめて『あなたを探してたんです』と、苦しそうに唇を動かした。
それを嘘だと、不思議と彼には思えない。嘘かもしれないとは考えたけれど、彼女は瞳を逸らさなかった。唇を結んで、ただ願うような視線を向けていた。

その目に浮かんだ澄んだ悲しみを、見過ごすことはできなかった。
思い詰めた表情で、こちらの様子を窺っている女の子があんまりにも健気に見えて、

「とりあえず、ウチ来る?」
「え?」

イエローキャブの路地裏にて、彼は名前も知らない女の子を自宅へと誘った。
哀れみがあったわけじゃない。好奇心からでもない。
ただ、彼女の話が真実だとするなら、記憶のない自分にも意味があった─── 意味があるのではないか。そんなことを、漠然と思ったのだ。

躊躇っている彼女の前で、くるりと踵を返す。
待てるのに待てない。妙に逸る気持ちに彼は戸惑ったが、後ろからついて来た足跡に知らず笑みを零した。



道中、彼女が知る“滝沢 朗”の話を聴いた。
先ほどの携帯の写真は、出逢ったばかりの頃に撮られたものだということ、二人の出逢いはホワイトハウス前だったということ、その出逢いから共に過ごした、ほんの一週間ばかりの濃密な時間と、半年前の自分が巻き込まれていたゲームのこと、今もまだそれは続いていて、自分の記憶がないのも王様申請に因るものらしいこと、そして突然の別れのこと。
感情を押し込めた声で、彼女にとっての事実を語っていく。それを聴きながら、彼は夕焼け空を見上げた。

「そっか…。にしても、この、ノブレス携帯? これで写真撮っておいて正解だったよね」
「…やっぱり、信じられない……ですか?」

そういうつもりじゃなくて、と彼はそっと振り返る。
彼女は夕暮れが消えていきそうな空をバックに、すこし悲しそうに瞳を揺らがせ、すっと彼へ近付いた。
彼は、しまった、という顔を浮かべて立ち尽くす。そんな顔、させるつもりではなかったのだけれど。配慮が足りなかったことを悔いたその一瞬で、目の前に迫った彼女が、真っ直ぐに見上げてくる。

さっきの、願うような視線。
ドキリとして、彼は息を呑む。
彼女は静かに視線を逸らすと、彼の右脇腹にそうっと手を伸ばした。
何をするつもりなのか、どういう意図があるのか分からず、彼は彼女の手がスーツ越しに触れてくるのを、黙って見守る。
そっと触れた女の子の手が、様子を窺うように、ゆっくりと脇腹を撫でる。訝しげな表情の滝沢にくるしそうな瞳を見せて、彼女は呟いた。


「滝沢くんは半年前、怪我をしてました。血も流して…。気絶するくらいの、怪我を」
「………、」


沈んだ様子で、もう一度、彼女は脇腹を撫でた。
絡んだままの視線は、だいじょうぶ? と問いかけている。
彼女は怪我を心配してくれているのだ、という事実にようやく気が付いた。
そして同時に、彼女の話を信じる、ひとつの証拠を突き付けられる。

「…確かに、半年前、怪我してたよ」
「もう、平気なの?」

ぽつりと肯定すると、彼女はますます心配の色を濃厚にしてしまう。
本当に大丈夫だから、と証明するように笑って、彼は自然と手を彼女の頭に乗せていた。

「うん、もう傷も残ってないくらいだから。だぁいじょうぶ、そんな顔しないで」

ぽんぽん。
ゆっくり、あやすように、お団子にしたそれを崩さないよう、頭を撫でる。
すると、彼女はちいさく息を呑んで、脇腹を撫でていた手をきゅっと握った。
それには気付かずに、彼は手を離して、再び歩き出す。

疑うようなことを言ってしまって悪かったな、と彼は思う。
一歩だけ遅れてついて来る足音に、安堵しながら、彼は空へ視線を向ける。

半年間、彼女はこの傷のことさえも案じていてくれていたのだろうか。
そう考えると、胸が痛い。血を流している自分を、彼女は確かに見ていて、それからほんの数日後に、自分はふっと彼女の世界から消えてしまったというのだから。

鮮やかに染まる世界の中で、胸の奥に眠っている何かが、彼のこころの扉を叩いている。
夕焼けを飲み込むような、夕闇が迫り来る。その空はやけに遠くて、普段は何でもない筈なのに、晴れているのにどこか泣き出しそうに見える。


─── 半年間、君のこころはこんな空模様だったの?


背中に注がれる視線の切なさに呼吸をかすかに乱し、何も言わぬままポケットに突っ込んだ手で、彼女が触れた脇腹をなぞった。

■END

劇場版Ⅰのネタ。これ自体は一ヶ月、二ヶ月? くらい前に考えていたものなんですが、脳内で連作になってました。なので書いたのですが、見事に書いた順序がぐちゃぐちゃです。ご、ごめんさい…。サイトにUPする際には、時系列を考慮して並べます。

滝沢くんの怪我は、#07にて黒羽さんからの妨害工作によって負った傷です。
服も破けて血は滲み出て、気絶する程の怪我。或いは衝撃。すぐさま完治するようなものでもないと思うのですが。半年も立てば治ってるかもだけど、記憶を消した後、暫くは傷が痛んで動きにくかったと考えてます。
#07後は、咲ちゃん(やエデンメンバー)を心配させまいと多少の無理をして動いていたんじゃないかな、と思うと切ないです…。

読んでくれてありがとうございます。
滝沢→咲のつもりで書いたので、そう見えていると嬉しいです。

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哀華
性別:
非公開
雑多妄想部屋。

【 推奨CP 】
東のエデン/滝沢朗×森美咲
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【 好き 】
I've Soundが大好き。特にKOTOKOちゃんらぶ。
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