■東のエデン/滝咲
※劇場版Ⅰと劇場版Ⅱの間のお話です。ご注意ください。
ご覧になる方は、「つづきを読む」からお願いします。
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そして思い知る
咲の手を取って飛行機に乗り込んだはいいものの、何を話すべきか分からずに窓の外へ目を向けてしまった。
いや、分からないというのは正しくない。たぶん、記憶を取り戻したからこそ、こわかった。
滝沢 朗として咲の前に立つことに、少し勇気が要る。蘇った記憶は覚えがあるものばかりなのに、整理がつかないのは気持ちの問題だ。
重たいエンジン音を立てて飛び立つ飛行機、遠ざかる地上。
それを見下ろすふりをして、物言いたげな咲の視線を窓ガラス越しに見ていた。
目が合っている、とお互いに気が付いているのに、何も言わない。言えない。
咲の瞳が揺らいで、俯く。肩を落とした彼女の姿を目にし、滝沢は胸がくるしくなるのを感じた。
咲は、たった一人でニューヨークまで来てくれた。
半年前の、滝沢からの一方的な約束を果たす為に。
短い間に森美 咲という女の子と交わした言葉、過ごした僅かな時間、それは滝沢の胸をあたためる、大切なものに違いない。
そして彼女は今こうして傍に居る。繋いだ手は細く、抱き締めた身体は華奢だった。
探し出してくれたことに感謝を、見付け出してくれたことに愛しさを、覚える。
窓ガラスに映る咲は、躊躇いがちに視線を滝沢へ向けた。
俺なにしてんだろ、と胸中で悪態をついてから振り返る。
言葉なんて選ぶ必要はない。
「咲」
大切なのは、この想いだ。
だから、彼女の名前に全てを込めて、呼んだ。
おずおずと顔を上げて、咲は滝沢を見つめる。
その眼差しには、怯えや不安のような暗雲が消えない。
その一因に深く自分が関係していると自惚れて、滝沢は膝の上に置かれた咲の手を取った。
きょとん、とした顔で握られた手を見下ろし、慌てたように滝沢へ目を向けた咲に、滝沢は笑みを見せる。
「疲れたでしょ? 寝てもいいよ」
「…、でも」
何かを言いかけ、咲は口を噤む。
滝沢は咲の手を握って、シートへ沈む。
「大丈夫。俺は勝手に居なくならないし、着いたら起こすよ」
ぎゅ、と手を握る。
─── 此処に居るよ。君の傍に。
それは言葉にはできない、精一杯のメッセージだった。
レイトショーの夜に、確かに自分は咲を劇場に残してしまった。あれはNo.04のセレソンと対峙し、気絶させられていたのだからどうしよもなかったけれど、咲がそれを知る筈もないし、ずっと知らないままでいいとも思う。
咲は、再び自分が消えてしまうことを恐れている。それは、あのレイトショーの夜に起きた出来事が原因だろう。
咲が持つ傷痕を思うと、想いを言葉にはできなかった。
見つめた先で、咲は少し迷った後、滝沢の手を握り返した。
「…うん。滝沢くんも疲れてるよね」
「まあ、ちょっとは」
「そっか。…じゃあ、ちょっと休ませてもらっても、いい?」
「ああ、そうしなよ」
「うん、ありがとう。でも、あの…ひとつだけ」
「? なに?」
お互いに休息を取ることを了承する。
咲は滝沢を見つめると、躊躇いを見せてから、言った。
「肩、借りてもいい?」
上目遣いで、やや頬を赤らめて、必死にそんなことを願う咲が、いじらしい。
考えなければいけないことは山ほどある筈なのに、それが全部どうでもよくなるほど、滝沢の胸には愛しさが押し寄せた。
ああ、俺は咲が好きなんだ─── 記憶を取り戻してから初めて自覚したそれは、すんなりと滝沢の胸に染み渡り、ふわふわと彼を包んだ。
耳に届いたその声は優しく、向けられる想いがくすぐったくて、照れくさい。
ぱちり、と咲が瞬く。切なく揺れる瞳に自分が映った気がして、滝沢は胸が高鳴るのを感じる。
自分を落ち着ける為にもゆっくりと頷いて、滝沢は咲が眠りやすいように身を寄せた。
「いくらでもどうぞ」
何とか小さく笑いかけると、咲は逃げるように俯く。
けれども繋いだ手は離さずに、そっと滝沢の肩へ頭を乗せた。
それが安心するのだろうか。何となく、滝沢は咲の頭を撫でた。
すぐ傍で、息を呑んだ気配がして。
滝沢くん、と。切なげな吐息が耳元に届いて、滝沢はどきどきした。
今だけは。
考え事を、放り出して。
咲の手の温もりと、咲の重みだけを感じて、滝沢は目を閉じた。
■END
最後まで、いいタイトルが思いつきませんでした…。
素敵なタイトルをください。センスのあるタイトルを。
哀華さんはセンスがないので、いつもタイトルに悩みます。
ともあれ、意外と書いてない滝沢→咲なお話。
私はそれが見たいのですが、エデンは全キャラ好きすぎて、いろいろコンビとしての組み合わせが豊富で困ります。
飛行機の中でどんな会話したんだろう。すぐに眠ってしまったわけじゃないと思うのですが…。
滝咲が可愛くて何だか死にそうです。哀華さんはとても不器用な人間なので、愛でるものが複数ある今の事態に大変混乱しています。
…TOS/ロイコレ、東のエデン/滝咲、どっちも可愛くて愛でたくて、大好きで。時間が足らなくて悔しい。私が二人いればいいのに、と本当にそう思う。書く為だけに分裂したかった。
と、わけのわからないコメントはさておき、読んでくれてありがとうございました!
滝咲がとんでもなく可愛い。もう、ほんと、同人誌とか出しちゃいたいくらい。(←出したことないのに…)
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