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エデンに響き渡るのは、焦がれた声。
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■東のエデン/滝咲
※劇場版Ⅱの後(ED後)のお話です。ご注意ください。

ご覧になる方は、「つづきを読む」からお願いします。



すべてが叶う楽園じゃなくても



まだ冬の呼吸が消えない日の、ほんの束の間の夕暮れ時。
煌くネオンの中で、たったひとつの大切なものを見付けた。
遠目からでも分かる。探し続けたもの、願い続けた唯一がそこにあると、確信した。
人ごみを縫うように駆け抜けて、とにかく走って、どれだけ呼吸が乱れても、それを目指した。

信じられないものを見た、と滝沢は硬直していた。動じることはあってもフリーズすることのなかった彼が、ぎしりと音が聞こえてきそうなくらい不自然に動きを止めたので、いろいろ言おうと考えていたことは胸の中でぱちんと弾け、これでもかというくらい粉々に砕けて消えた。
見ていて面白いほどに、滝沢 朗は硬直している。だが、残念なことにそれを楽しむ余裕など最早ない。
息を吐いて、胸の奥底に溜め込んできた気持ちを整理しようと努める。
過ごした期間は短かった筈なのに、不思議と見慣れたミリタリージャケットが懐かしい。
一歩踏み出して見せると、滝沢は我に返った。
戸惑いの眼差しを真っ直ぐに受け止めて、構わずに進む。
近付く度に彼は困った顔をした。目の前に立つと、まるで昨日も会ったかのような気軽さで、ようやく声をかけてきた。

「咲」

ずるい、と思った。久方ぶりに耳にした滝沢の声は、咲の心をぐちゃぐちゃに掻き混ぜ、優しく包み込む。
滝沢と過ごした、ほんの僅かな時間に起きた沢山の出来事が、咲の脳裏を過ぎった。
ただ一声だけで、こんなにも揺らぐ。なんて弱いんだろう、と咲は湿気る息を零した。でも、そんな自身の弱さが愛しい。だってそれは滝沢へ向ける想いが強ければ強い程、揺らいでしまうものだからだ。

「咲」

また、呼ばれる。ずるい。なんてずるいんだろう。
揺らいだ世界は滲み出し、見つめる先の滝沢の表情がよく見えない。
どうして、とか。何で此処に、とか。そんな第一声だったら、思い切り『ばか』って言えたのに、グーでパンチもできたかもしれないのに。
彼はそんな問いかけをしなかった。涙が零れそうなのを我慢して見つめれば、彼は困ったように頭を掻いて笑った。
その笑顔は、『分かってるから』と言っているように見えた。
たぶんそれは間違いない。彼は分かっているんだ。
私がこんな所に居る理由なんて、分かっているんだ。
だから、どうしてとか、何でとか、そんな漠然とした問いかけはしなかった。

驚いたのは最初だけで、もう現実を受け入れている。
動揺してほしかった訳じゃないけれど、優しすぎる視線がくるしい。

「ごめん。俺、随分と待たせてるよね」

微笑みが、苦笑いに変わる。
それは、まだ約束を果たせないと遠回しに告げていた。
まだ、咲のもとへ帰ることはできない、と。

「こんな俺に─── 無理に付き合ってくれなくて、いいんだよ?」

そして優しい声は途端に悪魔の囁きみたいな怖いものに変わり果てた。
全力疾走して乱れたままの呼吸だったけれど、そんなものが整うのを待っていられない。

「約束、を、破る…の?」
「…咲がつらいなら、それも仕方ないかなって思った」

彼にしては珍しい沈黙の後。あっさりとした答えが返ってきた。
咲は胸が引き裂かれたような衝撃を隠せず、息を呑む。
どういうつもりなんだろう、とぐらぐらする頭で必死に考えたけど、分からない。
でも、恐る恐る見上げた彼の表情は。見たことないくらい、悲しそうなものだった。

ずきん、と胸が痛くなる。
引き裂かれた痛みよりも鈍い、けれど深い、悲しい痛み。

嘘つき、と呟いた。
滝沢は偽っている。自分の心を、偽っている。だからあんな顔をしているんだ。
ついに涙が零れだして、頬を伝う。それでも顔を上げて、咲は滝沢から目を逸らそうとしない。


「私から、取り付けた約束だよ。絶対に、破らない」


決意を示すように、言って。
自分のことなど忘れても構わないと嘯いた滝沢を、睨むように見上げた。
滝沢は驚いたように目を丸くして、ぱちりと瞬くと、ふと肩の力を抜いた。
その表情から悲しそうな色は消えて、苦笑いも引っ込んだ。
そして咲に、微笑を見せると、そっと咲の手を取る。

「ありがとう、咲。それからごめん。まだ約束は果たせないけど、破らないから」
「うん」

真っ直ぐに見つめ返して、滝沢はそう言った。
誓うように指先を絡めて、滝沢は優しく微笑んだ。
それだけでもう胸の中の暗雲は消えて、また逢えなくなると分かっていても、咲の心は晴れた。
きゅ、と手を握り返す。冬の残滓が見え隠れする季節だからか、滝沢の手は冷たかった。

「咲、手が冷えてるよ」
「滝沢くんこそ」
「じゃあ、ちょっとお茶してく?」
「…え?」

もうすぐにお別れなんだ、と思い込んでいた咲は彼が何を言っているのか分からずに目をまん丸にして、知らず間の抜けた声を上げていた。
滝沢はおかしそうに吹き出して、咲の答えを待たずにその手を引く。

「少し時間あるんだ。お茶だけ飲んで帰ってもいいし、とりあえずは暖まった方がいいよ」
「う、うん」

もう、あの頃と変わらない滝沢がそこにいる。ドキドキする。
余裕を見せる彼の横顔は晴れやかで、記憶の中のものと一致する。
毎日その顔を見ていたい、と思いながら、咲は躊躇いがちに滝沢の手を引き寄せた。

いかないで、
かえりたくない。

そんな想いは言葉にできない、できる筈もなかったから、せめて腕を絡めて、とっぷりと日が暮れた夜の中、一歩を惜しむように、一秒を噛み締めるように、並んで歩く。
いつの間にか、涙は止まっていた。頬に残った涙の跡を指先で拭うと、滝沢がそれに気が付いて立ち止まった。
彼は徐に咲へ手を伸ばすと、その頬を両手で包み込み、涙の跡に触れた。
そして降り注ぐネオンの中、滝沢は咲の目元に唇を寄せ、そっと涙の痕跡を消した。

「やっぱり涙ってしょっぱいね」
「……、…」

真っ赤になって口をぱくぱくさせる咲を見て、滝沢はおかしそうに笑い声を上げ、言葉の出てこない咲の手を引いて歩き出した。
恥ずかしくて顔を合わせられない咲は気が付かなかったけれど、滝沢の頬も少しだけ、赤く緩んでいた。

まだ約束は果たされない。
けれど、いま此処に、君が居る。

■END

After Story
咲ちゃんが待ちきれず滝沢くんを探し出して逢いに行っちゃった話です。
待ってるときのネタとか、探し出すまでにどうしたとか、そんなのも思い浮かんだんですが、とりあえず真っ先に書きたかったネタを書きました。
それ以外は機会があれば。滝咲というよりも咲ちゃん(滝←咲)の話になっちゃうので。

じゃなくて、滝沢くん、やっちゃいました。というか哀華さんがやっちゃいました。
滝沢くんにペロンとされたら、そりゃ咲ちゃんも『ぷしゅー』状態だと思います。いいぞもっとやれ!(笑)
でも滝沢くん自身も、実はそういうので照れたりしていて、咲ちゃんがそれに気が付いていないとか萌える。
滝沢くんもそんなに余裕あるわけじゃないのよ! と、信じてる。咲ちゃんが好きだからドキドキだと思う。

そして相変わらずタイトルが思いつきませんでした。
連日、滝咲を妄想しすぎじゃないかという感じですが、止まりません…。
先日プレゼントとして有り難く頂いた電子メモ『ポメラ DM20』でも滝咲を書き殴っております。
あれ、侵食率が半端ないんですけど…。責任とってください神山監督。(笑)

神山監督! 切に! 続編を希望します。
滝咲が可愛くてしんでしまいそうだ。

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ああ駄目です哀華さん・・・・っ!
つきねこさんのハートにジャストミートです☆
二人かわいー!もう大好きです!(告白
リンクありがとうございました!
うれしくて泣きながら小躍りですよ!
つきねこ 2010/03/24(Wed)23:44:07 編集
つきねこさんへ
ものすごい捏造ですみません…でも滝咲にたっぷり愛をこめたつもり、です。
咲ちゃんは滝沢くんを待てたのかもしれませんけど、哀華さんが待てませんでした(笑)
つきねこさんに可愛いとか言ってもらえて、哀華は悶えてます。
だって、つきねこさんの滝咲、すごくらしくて可愛いんですよ…! にまにまします。私はあなたの滝咲が大好きです(*´∀`*)
リンクは本当にありがとうございます。私も小躍りする勢いで嬉しいです!
哀華  【2010/03/27 23:43】
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東のエデン/滝沢朗×森美咲
他/男女王道CP

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I've Soundが大好き。特にKOTOKOちゃんらぶ。
fripSide(第一期・第二期)も好きです。naoすき。
ダークトランス系がとてもすき。
エデン影響でsfpも好き。
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