■東のエデン/結城くんと咲ちゃん
※劇場版Ⅱの後(ED後)のお話です。ご注意ください。
ご覧になる方は、「つづきを読む」からお願いいたします。
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虚構の現実に差したひかり
夏が終わりそうなのか、蝉の鳴き声が遠い。いいや、それとも近いのか。うるさくて、彼にはよく分からなかった。みんみん、じー、じー、みーん。耳の奥に響くそれは、彼には鬱陶しいものに思えて仕方なかった。
白い壁、白い廊下、白い天井。人工の白の世界を虚ろに歩きながら、漂うように考える。入院してから、どのくらい経ったっけ。分からない。どうでもいい。未来なんて、何もない。今までいろいろ頑張ってきたけど、それが報われたのはいつ。報われるのは、果たしていつなのか。
ふらふら、と彼は緊急搬入口から病院の裏へ出た。人気のない方へ歩いて、裏庭に出る。
人が居ないところに来ると、すこしだけ心が落ち着く。でも、満たされないまま。
迷ってばかりの自分。いつまでも、どっちつかずだ。全てを跳ね除けようとして、それが失敗して、自分の殻に閉じこもろうとして。今度は、ひとりきりの世界にも虚しさを覚える。そんなことの繰り返し。
でも自分ではどうすることもできない、と諦めてしまった彼は、いつものように裏庭へ訪れ、ふらりとベンチに向かい、先客に気が付いた。
木陰で暑さを凌ぎながら、見慣れない女の子が携帯電話をいじっている。
病院には似つかわしくない、淡い色のワンピースと、下ろした明るい髪の毛が風に揺られる。
ぴたり、と彼は立ち止まり、どうしようかと迷った。どうして女の子が此処に居るのか分からない。引き返すべきか。
彼が足を止めて考えた一瞬、女の子は困った顔で溜息を吐き、彼の方を向いた。
「あ」
「え」
女の子が、すこしだけ笑った。
近付いてくる女の子に驚いて、彼は一歩後ずさる。
「すみません。ちょっとお聞きしたいんですけど…」
「…、なんですか」
「入り口って、何処ですか?」
「……あっち、ですけど」
思いのほか、すらすらと受け答えができた。
久しぶりに声を絞り出したような気がして、自分でも声は聞き取りにくいなと感じたけれど、女の子にはちゃんと聴こえていたらしい。
「ありがとうございます。ちょっと、ヘンな所から入っちゃったみたいで、困ってたんです」
女の子は照れくさそうにそう言って、ぺこりと頭を下げてから、彼が来た方へ駆け出した。
道に迷った事実が恥ずかしかったのかもしれない。逃げるように走り出した彼女の鞄から、ころりと何かが落ちた。
地面に落ちたものを何の気なしに拾おうと視線を向けて、彼は硬直した。
走り出した女の子が急ブレーキをかけて、くるりと踵を返す。
彼は屈みこんで落ちたもの拾い、戻ってきた女の子を見つめた。
「あ、す、すみませ、」
「…これ、君のなの?」
「え」
さわさわと、涼しい風が吹いた。
「…もしかして、あなたが、結城さんですか?」
「…、…そう、だけど」
「そう、ですか。…そのノブレス携帯は、…滝沢くんのものです」
「No.09の…? ………きみ、は…、あ」
彼は、ある冬の日を思い出した。
物部と共に、記憶を失くしたNo.09の動向を探っていた時のこと。
京都在住の工学部学生のもとを訪れたNo.09と一緒に、たしか女の子が二人いた。
ひとりは小さい子で、もうひとりで、たぶん、目の前の。
息を呑んだ彼の前で、ぎこちなく、彼女は自己紹介した。
「はじめまして。森美 咲といいます」
ノブレス携帯を受け取った彼女は、大事そうにそれを鞄の中へしまいこんでから、ゆっくりと顔を上げた。
「…あの、身体は平気なんですか?」
「え。うん……」
訳が分からない。なんで、No.09と共に居た女の子がこんなところに?
混乱している彼はそうとしか答えられず、彼女は気後れしたように俯いたが、すぐにまた声をかけてくる。
「あの、私、あなたに聞きたいことがあって」
「…僕に?」
「はい。あ、その前に」
鞄のなかからごそごそと、女の子はラッピングされた可愛らしい紙袋を取り出した。
どうぞ、と差し出してきたので、思わず受け取る。
「入院してるって聞いたので、お見舞いの品です。果物とかだと、あんまり日持ちしないから、お菓子に。よかったら」
「…、ありがとう。でも、……なんで僕に」
君は知らないの、僕がNo.09に抱いている感情を。
彼は戸惑いを隠せず、女の子を見下ろす。
すこし困ったように女の子は笑った。でも、それだけだった。
彼女自身、その問いかけに答えられないのかもしれない。
沈黙が流れて、女の子は『訊きたいことなんですけど、』とちいさく疑問を口にする。
「板津 豊くんという人を、知っていますか。京都に住んでいる、工学部の学生なんですけど」
「……、」
ぎくり、とした。
さあ、と受け流すことも上手くできない。
緊張する彼に気付いているのかいないのか、静かな声で女の子は問いかけた。
「冬の日、板津くんを助けてあげたのは、あなたですか?」
「…、なんで」
そう思うの、とは言葉にならなかった。
だけど、女の子にはそれで十分だったらしく、やっぱり、と微かに笑った。
じりじりとした夏の暑さに、飲み込まれそうだ。冬のあの日、人を轢き殺しそうになったときの手の震えを思い出し、彼はぼんやりする。
目の前の女の子は、それさえも知っているのか。知らない筈がない、こんなことを話しているのだから。
でも、ならばどうして。
「板津くんにタオルかけてくれたの、あなたなんですね」
「…だって、あのままじゃ…しんじゃうと思ったから」
ぽつり、と言った。
ありがとう、と女の子は言った。
彼は、胸にこみ上げてくるあたたかくて熱いものに、戸惑った。でもそれは、痛い。痛いけど、懐かしくて、こころに染み込んでくる、忘れかけていた何か、或いは捨ててしまおうとしていた何かだ。
ぼやけた視界に驚いて、彼は深呼吸した。女の子の前で、見せる顔じゃない。
「何で、ここに?」
「近くに…板津くんのところに寄った帰りです」
「よく、分かったね。場所」
「板津くん、すごい人だから」
「調べたの?」
「みたいです」
「…すごいんだね」
木陰で涼みながら、彼は受け取った紙袋に視線を落とす。
「僕、家族いないから。果物とかじゃなくて、助かったよ」
「…え。…、そう、なんですか」
「うん。だいぶ前に、両親が他界した」
「………」
なんでこんなこと話してるんだろう、と彼は思った。
話してもしょうがないことだ。でも、口を突いて出てしまった。
理由はよく分からない。ただ、誰かに話を聴いてほしかっただけなのかもしれない。
彼女は黙して、空を見上げ、ちいさく息を吐いた。
ああ、困ってる。どうフォローすべきか分からず、彼は黙り込んだ。
と、意外にも彼女は『私も両親、居ないんです。お姉ちゃんは、居ますけど』と呟いた。
「…そうなんだ」
ぷっつりと、会話は途切れた。
みーんみんみん。誰かを呼んでいるような蝉の声を聴いて、彼はふと思い出す。
「そういえば、どうして君はNo.09のノブレス携帯を持ってるの」
「滝沢くんと、約束したからです」
「…やくそく?」
「…戻ってくるって。私は、彼を待ってるんです」
ああ、と彼は納得した。
彼が入院を余儀なくされた出来事があったあの朝、日本中の携帯電話がAIR KINGこと滝沢 朗に乗っ取られた、らしい。
生憎と彼はそのとき既にノブレス携帯を壊していて、携帯電話を所持していなかったので、よくは知らないけれど。
ニュースや新聞で、散々騒がれたから、大まかには把握している。
「No.09は、いま、何処に居るの」
「分かりません。でも、みんなの為に、奔走してるんだと思います」
…僕とは違うね、と思わずちいさく零れ落ちた本音を、彼女は聞き逃さなかった。
ふわ、と。はじめて、やわらかな笑みを、見せて。
「結城さんも、人助けしてるのに、なに言ってるんですか?」
「……僕が?」
何をしようとしたか、知ってるの。
何をしてしまったか、知ってるの。
知らないくせに、知らないくせに。
「だって、板津くんのこと、助けてくれました。
あの日、雪が降ってたから、そのままにされてたら本当に危なかったかもしれないって、板津くん言ってました」
「…、」
でもそれは、ほんのちいさなことでしかなくて、たぶん償いにもならないんだ。
こわくなって、彼は女の子から目を逸らした。
「少なくとも、板津くんの命を救ってくれたのは、結城さんです」
「…でも僕は、……」
「ちいさなことでも、積み重ねていけば、いいと思います。あなたにとってそれがちいさな良心でも、相手にとってはそれ以上のものになるかもしれないから」
淀みのない言葉に、何も返すものがない。
手のひらに乗っかった、ちょこんとした紙袋が、やけに眩しく見えた。
「…ありがとう」
「いいえ。急に訪ねてごめんなさい」
お大事に、と付け足して、彼女はそっと歩き出した。
「もう行くの?」
「はい。また、今度」
ひらり、と手を振って、彼女はそう言った。
さよならではなく、また今度。
また今度、と彼も手を振る。どうしてか、泣きたい。泣きたいくらい気持ちがごちゃごちゃしてるのに、こころの中は、晴れやかだった。
■END
パンツの部屋からタオルを持ってきてかけてあげたのは誰だったのか? 総集編を見て『亜東さんかなあ』と考えたこともあったのですが、咲とみっちょんが亜東さんのタクシーに乗ってたことを考えると、それはちょっと微妙だなあって。(板津助けて新幹線より早く車が到着するのか? みたいな。)
で、亜東さんじゃないとしたら誰なのか? 結城くんしかいないじゃないですか。物部さんは、あの後すぐ滝沢くんを追いかけたんだろうし。
結城くんが咲ちゃんに救われるっていうのは、ちょっとばかし夢を見すぎな気もするし、需要なさすぎる(ありえなさ過ぎる)コンビだけれど、ちょっと書いてみたかった…の、です。(出来はアレですが。)
結城くんを書きたいなと思ったのがつい先日なので、キャラがまったく掴めておりません。なのに書きました。(爆)
どちらかと言うと結城くん視点で、咲ちゃんが『誰だこれ』状態になっています。年の差を考えてみて、会話がおかしいなと思ったけど、もう修正する気力がない…。
というか、長いよ。昨日といい今日といい、セレソンに力を使うのもいいけれど、組み合わせが突拍子もないんじゃないか、これ。
エデンメンバーとセレソン、和解してくれる(仲良くなれる)日が来るといいなあと夢を見たいらしいです、哀華さん。
書きたいことだけ書いたのに、消化不良な感がするのは昨日に引き続き私の技量がないから&よく考えないで書いてるからです。すいません。
ただ、結城くんを書いて満足しました。
携帯では滝咲(?)を書いてるので、なんかもう哀華さんは『滝咲も書いたしちょっとビックリコンビいってみよー!』なノリなんですが、見てくれている方々にはサッパリな組み合わせで『滝咲はどうした!?』ですよね、すいません。
携帯ネタは小ネタなんですが、よくよく考えてみると小ネタ連鎖でひとつのお話になっていることに気付きました。
だいぶ前に考えたのに。遅すぎる。
なので、書いてもちょっとすぐさまUPできるようなものではありませんでした。
読んでくれてありがとうございます。
今日も、読み返すと消しちゃいそうなので、そのままUPします…。(爆死)
追記
ひっそり、一文を削除。書いてUPしてお風呂はいって『あ、嘘書いた』と気がついたので…慌てて削除(汗)
削除前の一文に気がついた人がいらっしゃいましたら、見なかったことにしてあげてください。
夏が終わりそうなのか、蝉の鳴き声が遠い。いいや、それとも近いのか。うるさくて、彼にはよく分からなかった。みんみん、じー、じー、みーん。耳の奥に響くそれは、彼には鬱陶しいものに思えて仕方なかった。
白い壁、白い廊下、白い天井。人工の白の世界を虚ろに歩きながら、漂うように考える。入院してから、どのくらい経ったっけ。分からない。どうでもいい。未来なんて、何もない。今までいろいろ頑張ってきたけど、それが報われたのはいつ。報われるのは、果たしていつなのか。
ふらふら、と彼は緊急搬入口から病院の裏へ出た。人気のない方へ歩いて、裏庭に出る。
人が居ないところに来ると、すこしだけ心が落ち着く。でも、満たされないまま。
迷ってばかりの自分。いつまでも、どっちつかずだ。全てを跳ね除けようとして、それが失敗して、自分の殻に閉じこもろうとして。今度は、ひとりきりの世界にも虚しさを覚える。そんなことの繰り返し。
でも自分ではどうすることもできない、と諦めてしまった彼は、いつものように裏庭へ訪れ、ふらりとベンチに向かい、先客に気が付いた。
木陰で暑さを凌ぎながら、見慣れない女の子が携帯電話をいじっている。
病院には似つかわしくない、淡い色のワンピースと、下ろした明るい髪の毛が風に揺られる。
ぴたり、と彼は立ち止まり、どうしようかと迷った。どうして女の子が此処に居るのか分からない。引き返すべきか。
彼が足を止めて考えた一瞬、女の子は困った顔で溜息を吐き、彼の方を向いた。
「あ」
「え」
女の子が、すこしだけ笑った。
近付いてくる女の子に驚いて、彼は一歩後ずさる。
「すみません。ちょっとお聞きしたいんですけど…」
「…、なんですか」
「入り口って、何処ですか?」
「……あっち、ですけど」
思いのほか、すらすらと受け答えができた。
久しぶりに声を絞り出したような気がして、自分でも声は聞き取りにくいなと感じたけれど、女の子にはちゃんと聴こえていたらしい。
「ありがとうございます。ちょっと、ヘンな所から入っちゃったみたいで、困ってたんです」
女の子は照れくさそうにそう言って、ぺこりと頭を下げてから、彼が来た方へ駆け出した。
道に迷った事実が恥ずかしかったのかもしれない。逃げるように走り出した彼女の鞄から、ころりと何かが落ちた。
地面に落ちたものを何の気なしに拾おうと視線を向けて、彼は硬直した。
走り出した女の子が急ブレーキをかけて、くるりと踵を返す。
彼は屈みこんで落ちたもの拾い、戻ってきた女の子を見つめた。
「あ、す、すみませ、」
「…これ、君のなの?」
「え」
さわさわと、涼しい風が吹いた。
「…もしかして、あなたが、結城さんですか?」
「…、…そう、だけど」
「そう、ですか。…そのノブレス携帯は、…滝沢くんのものです」
「No.09の…? ………きみ、は…、あ」
彼は、ある冬の日を思い出した。
物部と共に、記憶を失くしたNo.09の動向を探っていた時のこと。
京都在住の工学部学生のもとを訪れたNo.09と一緒に、たしか女の子が二人いた。
ひとりは小さい子で、もうひとりで、たぶん、目の前の。
息を呑んだ彼の前で、ぎこちなく、彼女は自己紹介した。
「はじめまして。森美 咲といいます」
ノブレス携帯を受け取った彼女は、大事そうにそれを鞄の中へしまいこんでから、ゆっくりと顔を上げた。
「…あの、身体は平気なんですか?」
「え。うん……」
訳が分からない。なんで、No.09と共に居た女の子がこんなところに?
混乱している彼はそうとしか答えられず、彼女は気後れしたように俯いたが、すぐにまた声をかけてくる。
「あの、私、あなたに聞きたいことがあって」
「…僕に?」
「はい。あ、その前に」
鞄のなかからごそごそと、女の子はラッピングされた可愛らしい紙袋を取り出した。
どうぞ、と差し出してきたので、思わず受け取る。
「入院してるって聞いたので、お見舞いの品です。果物とかだと、あんまり日持ちしないから、お菓子に。よかったら」
「…、ありがとう。でも、……なんで僕に」
君は知らないの、僕がNo.09に抱いている感情を。
彼は戸惑いを隠せず、女の子を見下ろす。
すこし困ったように女の子は笑った。でも、それだけだった。
彼女自身、その問いかけに答えられないのかもしれない。
沈黙が流れて、女の子は『訊きたいことなんですけど、』とちいさく疑問を口にする。
「板津 豊くんという人を、知っていますか。京都に住んでいる、工学部の学生なんですけど」
「……、」
ぎくり、とした。
さあ、と受け流すことも上手くできない。
緊張する彼に気付いているのかいないのか、静かな声で女の子は問いかけた。
「冬の日、板津くんを助けてあげたのは、あなたですか?」
「…、なんで」
そう思うの、とは言葉にならなかった。
だけど、女の子にはそれで十分だったらしく、やっぱり、と微かに笑った。
じりじりとした夏の暑さに、飲み込まれそうだ。冬のあの日、人を轢き殺しそうになったときの手の震えを思い出し、彼はぼんやりする。
目の前の女の子は、それさえも知っているのか。知らない筈がない、こんなことを話しているのだから。
でも、ならばどうして。
「板津くんにタオルかけてくれたの、あなたなんですね」
「…だって、あのままじゃ…しんじゃうと思ったから」
ぽつり、と言った。
ありがとう、と女の子は言った。
彼は、胸にこみ上げてくるあたたかくて熱いものに、戸惑った。でもそれは、痛い。痛いけど、懐かしくて、こころに染み込んでくる、忘れかけていた何か、或いは捨ててしまおうとしていた何かだ。
ぼやけた視界に驚いて、彼は深呼吸した。女の子の前で、見せる顔じゃない。
「何で、ここに?」
「近くに…板津くんのところに寄った帰りです」
「よく、分かったね。場所」
「板津くん、すごい人だから」
「調べたの?」
「みたいです」
「…すごいんだね」
木陰で涼みながら、彼は受け取った紙袋に視線を落とす。
「僕、家族いないから。果物とかじゃなくて、助かったよ」
「…え。…、そう、なんですか」
「うん。だいぶ前に、両親が他界した」
「………」
なんでこんなこと話してるんだろう、と彼は思った。
話してもしょうがないことだ。でも、口を突いて出てしまった。
理由はよく分からない。ただ、誰かに話を聴いてほしかっただけなのかもしれない。
彼女は黙して、空を見上げ、ちいさく息を吐いた。
ああ、困ってる。どうフォローすべきか分からず、彼は黙り込んだ。
と、意外にも彼女は『私も両親、居ないんです。お姉ちゃんは、居ますけど』と呟いた。
「…そうなんだ」
ぷっつりと、会話は途切れた。
みーんみんみん。誰かを呼んでいるような蝉の声を聴いて、彼はふと思い出す。
「そういえば、どうして君はNo.09のノブレス携帯を持ってるの」
「滝沢くんと、約束したからです」
「…やくそく?」
「…戻ってくるって。私は、彼を待ってるんです」
ああ、と彼は納得した。
彼が入院を余儀なくされた出来事があったあの朝、日本中の携帯電話がAIR KINGこと滝沢 朗に乗っ取られた、らしい。
生憎と彼はそのとき既にノブレス携帯を壊していて、携帯電話を所持していなかったので、よくは知らないけれど。
ニュースや新聞で、散々騒がれたから、大まかには把握している。
「No.09は、いま、何処に居るの」
「分かりません。でも、みんなの為に、奔走してるんだと思います」
…僕とは違うね、と思わずちいさく零れ落ちた本音を、彼女は聞き逃さなかった。
ふわ、と。はじめて、やわらかな笑みを、見せて。
「結城さんも、人助けしてるのに、なに言ってるんですか?」
「……僕が?」
何をしようとしたか、知ってるの。
何をしてしまったか、知ってるの。
知らないくせに、知らないくせに。
「だって、板津くんのこと、助けてくれました。
あの日、雪が降ってたから、そのままにされてたら本当に危なかったかもしれないって、板津くん言ってました」
「…、」
でもそれは、ほんのちいさなことでしかなくて、たぶん償いにもならないんだ。
こわくなって、彼は女の子から目を逸らした。
「少なくとも、板津くんの命を救ってくれたのは、結城さんです」
「…でも僕は、……」
「ちいさなことでも、積み重ねていけば、いいと思います。あなたにとってそれがちいさな良心でも、相手にとってはそれ以上のものになるかもしれないから」
淀みのない言葉に、何も返すものがない。
手のひらに乗っかった、ちょこんとした紙袋が、やけに眩しく見えた。
「…ありがとう」
「いいえ。急に訪ねてごめんなさい」
お大事に、と付け足して、彼女はそっと歩き出した。
「もう行くの?」
「はい。また、今度」
ひらり、と手を振って、彼女はそう言った。
さよならではなく、また今度。
また今度、と彼も手を振る。どうしてか、泣きたい。泣きたいくらい気持ちがごちゃごちゃしてるのに、こころの中は、晴れやかだった。
■END
パンツの部屋からタオルを持ってきてかけてあげたのは誰だったのか? 総集編を見て『亜東さんかなあ』と考えたこともあったのですが、咲とみっちょんが亜東さんのタクシーに乗ってたことを考えると、それはちょっと微妙だなあって。(板津助けて新幹線より早く車が到着するのか? みたいな。)
で、亜東さんじゃないとしたら誰なのか? 結城くんしかいないじゃないですか。物部さんは、あの後すぐ滝沢くんを追いかけたんだろうし。
結城くんが咲ちゃんに救われるっていうのは、ちょっとばかし夢を見すぎな気もするし、需要なさすぎる(ありえなさ過ぎる)コンビだけれど、ちょっと書いてみたかった…の、です。(出来はアレですが。)
結城くんを書きたいなと思ったのがつい先日なので、キャラがまったく掴めておりません。なのに書きました。(爆)
どちらかと言うと結城くん視点で、咲ちゃんが『誰だこれ』状態になっています。年の差を考えてみて、会話がおかしいなと思ったけど、もう修正する気力がない…。
というか、長いよ。昨日といい今日といい、セレソンに力を使うのもいいけれど、組み合わせが突拍子もないんじゃないか、これ。
エデンメンバーとセレソン、和解してくれる(仲良くなれる)日が来るといいなあと夢を見たいらしいです、哀華さん。
書きたいことだけ書いたのに、消化不良な感がするのは昨日に引き続き私の技量がないから&よく考えないで書いてるからです。すいません。
ただ、結城くんを書いて満足しました。
携帯では滝咲(?)を書いてるので、なんかもう哀華さんは『滝咲も書いたしちょっとビックリコンビいってみよー!』なノリなんですが、見てくれている方々にはサッパリな組み合わせで『滝咲はどうした!?』ですよね、すいません。
携帯ネタは小ネタなんですが、よくよく考えてみると小ネタ連鎖でひとつのお話になっていることに気付きました。
だいぶ前に考えたのに。遅すぎる。
なので、書いてもちょっとすぐさまUPできるようなものではありませんでした。
読んでくれてありがとうございます。
今日も、読み返すと消しちゃいそうなので、そのままUPします…。(爆死)
追記
ひっそり、一文を削除。書いてUPしてお風呂はいって『あ、嘘書いた』と気がついたので…慌てて削除(汗)
削除前の一文に気がついた人がいらっしゃいましたら、見なかったことにしてあげてください。
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